<パーティーを組むときの心構え>
我々は山に登っている。ハイキング、岩壁登攀、沢登り、山スキー・・。
其処には常に危険が潜んでいます。雪崩、落石、転滑落だけでなく、
食中毒、日射病、虫刺されや極度の疲労、天候の急変など。

「敢えて危険に立ち向かうこと。これが冒険だ」と言われていますが、
我々は特別に先鋭的活動をしているわけではありません。
我々が行く先々には必ずと言ってよいほど人の足跡があります。
だから大言壮語して「冒険だ」とは言いませんが、
冒険的要素は高いものが有ります。

個人個人が今までに経験したことが無い、より困難な山行を行う。
あるいは危険性が高まるのを承知の上で、
その山行を行うには経験が充分でない者を連れてゆくなど
極めて冒険的なことだと思います。ただしその場合、
その山行が成功するよう、情報収集や入念な計画を立てる、
また体力的、技術的トレーニングを積み、
襲い来るかもしれない危険に対応できる技術や体力、
精神力を養うなど、事前の準備を怠ってはいけません。

あの植村直己は常々言っていたそうである。
「冒険とは生きて帰ること」と。

このように、冒険をするにあたっては、
常に安全性という事を考えて行動しなければなりません。
それに対し、安全性を無視した行動は無謀と言われます。
かつて十月の谷川岳や立山で吹雪に遭い凍死した事故がありました。
気象遭難と言われていますが、確かに天気さえ良ければ
起こらなかったであろう遭難です。
しかし、これらは山を識らなかったためと断ぜざるを得ません。
雨具も持たずに十月の谷川岳に登るというのは、
我々から見れば無謀の一言に尽きます。
しかし彼らはその行動が無謀であるという認識すら無かったのでしょう。
十月の谷川岳や立山は、天候が崩れれば雪になるという事を知ってさえいれば、
彼らは死ぬことも無かったのです。

山を識らずに山に登ることは非常に危険なことです。
我々は山を識る事を怠ってはいけません。
そして常に安全性ということを念頭においた行動が必要です。
山を登ったら無事帰ってくる。
そして自分の生活圏で山行を懐古できること、これが大切です。
自分の中に想い出として残ってこそ登った意味があるでしょう。
他人のために山に登っているのではなく、自分のために登っているのですから。

パーティを組むということは

同じ目的、目標を持つ人が集まって作ったチームがパーティです。
それを構成する人々は、その目的達成のために協力する必要があり、
その目的がより効率よく達成されるために役割分担が必要になります。
「船頭多くして船山に登る」で、メンバーが自分勝手なことを言い、
行動していたら目的達成は難しいものになります。
そこでリーダーが必要になってくる訳です。

リーダーは目的を達成するために、メンバーをまとめ、
危険を回避するなど諸々の判断・決断を下さなければなりません。
また、リーダーの負担を軽減するため、
メンバーはリーダーに協力しなければなりません。

パーティを組む時には大きく分けて二通りあります。
ひとつは一人の力でも充分目的を達成できるが、
多くの人と共にある方がより良いから、楽しいからという場合。
もうひとつは、一人の力では成し得ない、
或いは一人では安全性を確保できない様な目的を達成しようとする場合です。

いずれの場合でも、目的を達成するためには
「お互いが協力しあう」ことが大事な事です。
リーダーの為すべきこと

リーダーには計画から下山し解散するまでの、
すべての責任がかかってきます。
リーダーは安全に、かつ楽しく目的を達成するために、
技術的な事だけではなく、メンバーの状態、天気、
危険の察知と対応など、総合的な判断を必要とします。
また、そのために最大限の努力をする事が求められます。
これは自分の山行を豊かにすると同時に、社会的、
法的責任から自分自身を守る事にもつながります。
(法的責任については、文部省発行の「高みへのステップ」を参照のこと)

【計画】

・ 自分の技量の認識、メンバーの技量の認識、メンバーの決定
・ 登山ルートの決定、下山ルートの検討、アプローチの検討。
・ 装備チェック、役割分担
・ 危険時の想定と対応(エスケープルート等)
     →山行の決定→計画に無理はないかをチェックする
   →山行届け(計画書の提出)           

ガイドブックの内容は絶対ではありません。
あくまでも取材その時、その状態で書いてあるものです。
特に沢は常に変化しています。
山行の計画はそれらの事も考え合わせる必要があります。

【山行】

・ メンバー間の和、メンバーの技術、体調等のチェック。
・ コースの取り方、ルートファインディング、読図など実際の行動判断
・ オーダー(歩く順序)、行動のスピード、
  パーティのまとまりなどの設定、判断
・ 危険の予知と対応
天気、ルートの状況、メンバーの状態など、状況や情報を把握し、以下の事を決定する
ザイルやサポートの要・不要の判断、計画の実行と中止、進退の決定、
事故、遭難の対応(二重遭難、事故の防止、連絡、救助など)

【下山後】

・ 下山報告     
・ 山行報告、反省(会報など)

メンバーとして為すべきこと

1)山行参加にあたって

・その山行の目的、性格を知る。→ 危険度の認識
・山行への参加決定は自分自身であり、
 自分の責任において参加する事を認識する。
・リーダーはツアーコンダクターや山岳ガイドではない。
 「連れて行ってもらう」というのではなく、
 「一緒に行く。自分で歩く」という認識を持とう。
・自分勝手な言動は慎み、リーダーの判断や指示に従い、
   チームワークを考えた自主行動をする。
2)計画段階からの参加

3)山行に必要な技術や知識を養う。

・下調べ → 地図、ガイドブックなどからコースの概略、
       必要とされる技術、想定される危険などを読み取る。
・必要な技術と習熟度の認識 → トレーニング

4)学ぶ意識を持つ → 自主的な行動につながる

・ 上級者はどのように行動しているか。
・ 自分の判断と実際の行動との一致、不一致を知る。
  → なぜか?。理由は?

5)パーティの一員として山行を成功させるべく行動する。

・ 与えられた役割を確実に遂行する。
・ リーダーや他のメンバーの足りない部分を補う。
・ 自主的に考え行動する。 → リーダーの負担軽減

以上の様な事柄が、円滑な山行、成功につながります。

6)リーダーが諸々の判断を行うのに必要な情報を提供する。

・ 恐い、ザイルが欲しい、サポートして欲しい、
  休みたいなど、自身の体調、心理状況。
・ 病気や怪我の部位、程度をはっきり伝える。
・ リーダーが見落としているかもしれない
  気象の兆候、雪質、岩質、先行者の状況等。
・ 行動に対する意見。       
・ その他
おわりに

チームワークとは、目標を達成するために力を合わせる事であり、
危機的状況に陥った時こそ

その真価が問われます。このチームワークの良し悪しは、
互いの人間関係の良し悪しにも左右されるものです。

人間の行動や力は、気合が入る、気が乗らないなど、
気持ちに左右される部分が少なくありません。
また、この「気」は感情にも大きく左右されます。
気が入ると予想以上の力を発揮したり、
気が乗らないと十分な力が発揮できなかったり。
また面白くない事があればセルフコントロールが崩れ、
とんでもない行動を取ったり、或いは楽しければどんどん気乗りしてくるとか。
山行においてもこの気構えや感情といったものが大きく影響します。

この力の発揮を左右する「気」や「感情」といった精神的なものは、
ハードな山行になればなるほど重要視していかなければなりません。
人には少なからず欠点があります。
楽しいことをしてる時には性格的欠陥が表れる事は少ないのですが、
苦しいときに欠点が表れやすくなります。
一方で人間には「我慢する、耐える」という力が備わっていて、
何か感情を乱されるような面白くない事があっても、
日帰り程度の山行なら我慢しきれるでしょう。
しかし3泊も4泊もあったら我慢しきれるでしょうか。

そのような事が起こらないようにするためには、どうすれば良いのでしょう。
お互いを知り、譲り合い、許し合う事が必要になってくるでしょう。
そしてパーティを組んだ人たちが信頼し合うこと。
それには、まずコミュニケーションを深めることが大切です。

お互いの人間性、山に対する考え方、思い入れ、山の知識、技量、体力などを知り、
お互いが足らないところを補い合おうとする気持ちを持つことによって
チームワークが保たれるのです。

誰しも憧れている山やルートがあるでしょう。
ただ単に行ってみたいと思っているだけでは何の力も生まれません。
どうすれば行けるか、と考え出す事によって力が生まれてきます。
資料を集め、必要な技術と体力を知り、
シュミレーションしてみる。そしてトレーニングを始める。
やがて手に届かなかった憧れの山が実現可能な山へと変わってくる様になります。
このようにして出来上がった、自分の中で温めている計画が実現される時は
気合いが入るものです。それに反し、ただ憧れているだけの場合はどうでしょう。
憧れているから、計画があれば当然飛びつく。そういう時は多分に甘えが出ます。
地力がない事が多いから人に頼らざるを得なくなります。

なんとか行こうと自分を作り上げてきた人と、
計画に乗っかり連れて行ってもらおうとする人が
パーティを組んだ場合にはどうなるでしょう。
意気込みにしろ、技術にしろ大きなギャップが生まれ、
困難な山行になればなるほど行動に悪影響を及ぼす事につながります。
最悪の場合はパーティ全体が危険に曝されることにもなりかねません。

「登りたい山があったら資料を集め、計画を立ててみること。
山を知ることによって自ずから山の選び方にも真剣さが加わってきます。
そして、実行してみる事です。そうすれば自分に足りないことや、
やるべき事が少しずつ判ってきます。
ひとつ一つの積み重ねが自分を豊かにしてくれるのです。
そこから自分なりの登山の楽しみ方を見いだして行けるのではないでしょうか。」

文部省発行の「高みへのステップ」の一節です。