谷川岳 幽ノ沢中央壁右ルート

>日時:2017年9月28日(日) 予備日:29日(月)

>場所:谷川岳・幽ノ沢中央壁右フェース

>天気:晴れ

>コースタイム:8:30-12:40

 予定:谷川岳登山センター – 幽ノ沢出会 – カールボーデン – 右フェース –
    中央壁の頭 – 堅炭尾根 – 芝倉沢出会 – 谷川岳登山センター

 実際:谷川岳登山センター – 幽ノ沢出会 – カールボーデン – 右フェース –
    中央壁の頭 – 中芝新道 – 一ノ倉岳 – 谷川岳・肩の小屋 – 田尻尾根 –
    谷川岳登山センター

>メンバー:高尾(周)・大橋氏

>装備:登攀装備一式

>天気:晴れ

>MEMO
 今回、自分自身の至らない点よりルート選択・時間のロス・他諸々により計画通りに進まず
 予定通りの時間に下山することができませんでした。
 また、やもすれば大きな事故となりうる山行になっていた可能性がありました。
 下記に記載いたしますので、会員の皆様におきましては今後の山行の参考にしていただける
 と幸いと存じます。

 1)最初の計画では、27日(土)に行う予定となっていました。
   ただ前日より雨が降り、当日は天候の回復傾向が見込まれたが早朝からの行動、両者
   初めてのルートということもありリーダー権限で中止としました。
   このやりとりの際、日程の都合や他ルート経験のある大橋氏より「問題ないのでは?」
   というお話もありました。
   だいぶ迷いましたが、おそらく私自身がリードする回数が多いこと、岩自体が濡れて
   いることが容易に想定されるため中止し、翌日に日程調整を行いました。
   ※実際はビビって先送りにしたというのが本心かな・・・
   ※結果責任ある立場であれば、本当に慎重に検討すべきと思いました。

 2)山行当日
  4:10  谷川岳登山センター

  6:20  幽ノ沢出会
        ハーネス・登攀用具等装備
        沢の二股先より本来沢通しに行くはずが、右岸に入ってしまい最初から若干
        の藪漕ぎとなる。
        カールボーデン手前辺りで藪から脱出する

  9:20  中央壁右フェース取り付き
        最初から腐ったハーケン・リングボルトからのスタートとなる
        当日はV字状岸壁への登攀が4グループいました。
        1−2Pをつなげて登る(Ⅴ級)
        最初からトポ(日本登山体系@谷川岳)に記載の通り結構細かいホールドを使っ
        て登ることになる。そして、支点がかなり少ない。
        最初から3番カムを使うことになる。
        最初から岩角にロープが当たり、流れが悪く2P目上部では重くて行動、ビレイが
        結構大変でした。

 10:15  3P目(Ⅳ級)、最初から左へトラバース、この辺りから人口支点がなくなる。
        一回目のハーケンを打ち込む
        後に大橋氏に教えていただいたがハーケンを打ち込む時は輪の出っ張っている部
        分を下向きに打ち込むのが通常。
        知らずに上向きに入れてしまった。
        その後、このピッチは一つ腐ったハーケンが一ヶ所あっただけ、終了点は立木を
        まとめました。

 11:20  4P目、ここから岩は岩でも濡れている、そして泥がべったり。若しくはクマザサ
        地帯に突入。
        ほぼ最後までかなりの悪条件での登攀となりました。
        そしてトポ通りのルートではなくなりました。
        もしかしたらルート通りに行けるのかもしれないが、結果進んだルートに、この
        後中央壁の頭までに2つの腐ったハーケンがあったため
        今は行くのであればこのルートなのであろう・・・
        とはいえ、まだまだ半分以上残した状態ですでに取れる支点はクマザサをまとめ
        シュリンゲでタイオフ、フォールはもちろんの事、セルフビレイも取れる状態で
        はありません。
        クマザサの下の土にクライミングシューズのままキックステップ、たまに見つか
        る4〜5cmの穴に足を入れクマザサに体重を掛けないようにしっかり足に立ち込
        みながら上へ上へ進みました。

 12:30  5P目(Ⅳ+級)トポのルートと完全にズレる。
        ハングとハングの間のルンゼを行くはずが、そもそもハング地帯が見当たらない
        その上、自分たちがいる場所がかなり右側のリッジ側の近く。
        泥のたくさんついた木の根に支点を取り、乗り越えながら上へ抜けました。
        まだまだ続くクマザサ、先には良さそうな岩は見えてきているが濡れ濡れ、登っ
        て探すが全く見当たらない支点。
        結局岩場を抜け細い立木で支点を取る、足場も相変わらず悪い(土の斜面にクマ
        ザサ)フォローを上げる際にロープを引くたびにユサユサ揺れる支点、どうして
        も安心することができない。

        6P目、恐らく核心ピッチは終了したであろうと思っていたが、まだまだ続くク
        マザサ天国と、濡れた岩。
        この辺りから傾斜も立ってきて、脆い岩もかなり出てきました。
        あまりにランナウトしすぎて(多分15m〜20m)ハーケンを打とうとしたら、
        岩が割れ(頭くらいの大きさ)ハーケンが落ちてしまった。

        ※ハーケンには細引き等をつけておいて、打つ際に落としてしまわないような工
         夫をしておくとよいと感じました。

        さらにここで登っている最中に全く安心できる支点がなく、ザイルが足りなくな
        る事態が発生しました。
        短くてもピッチを切れる場所があれば切るべきでした・・・
        と言っても、いい場所はなかったと記憶しています。
        よりによって、まともなクマザサもなく、登ることも降りることもかなり危険な
        状態の場所で停滞してしまいました。
        この時すでに14時30分頃、出来るだけザイルを伸ばし先に進もうと必死にな
        りすぎていたのかもしれません。
        結果大橋氏にアンザイレン状態で10m程動いてもらいました。非常に危険な状
        態ですね・・・。

        7Pー11P目以降(Ⅲ級のはず)
        気が遠くなるほど続くクマザサと戯れること数ピッチ
        クマザサは掴み引っ張ると抜けてしまう。先にも記載した通り出来るだけ足元を
        作り立ち込み足にのりながら上がる。
        クライミングをしていれば当然の動きであるが、一度の失敗が命取りになる高所
        のため、どうしても緊張し、息が上がる。
        相変わらず支点は立木、ロープの流れも悪くビレイ解除してもザイルアップが一
        苦労。
        いい加減握力もなくなってくる。バイルを斜面に刺し、グリグリ突っ込む、少し
        の間であるがかなりの安定感。
        気をぬくと抜けてしまいそうなので支点には使えないが一時しのぎにはとっても
        いい感じでした。
        16時を過ぎたあたりで、空が曇り始める。
        登っても登ってもなかなか安心できる場所がない。
        日が暮れ始め、精神的にも負いってくる・・・。

17:30   多分終了点であろう場所に出る。
        とはいえ、傾斜は緩くなるがクマザサ混じりの斜面を登りつめる

18:30   中央壁の頭に出る
        テラスになっていて、ここでロープを片付けある程度の登攀用具を片付ける
        すでに暗くなっておりヘッデン無しでは行動不能な状態。
        この時に両者忘れ物を少ししていたようだ・・・

        この時点で、私は少々グロッキー状態。
        薄暗い中先をヘッデンで照らしたところ、前方には岩壁のように見える斜面。
        心がおれる・・・
        明るければ問題なく歩けるような場所でも暗くなると条件はかなり違う。
        ここでビバークしようかという相談もしたが、お互いに水の残りが無い。
        風・ガスが出てきている。
        「中芝新道まで出れば」と思い、再度行動を開始する。

19:20   中芝新道へ出る。
        一息つき、心を落ち着け芝倉沢へ向かおうと進んでホンの5分ほど。
        崩壊しているのか?暗くて判断がしづらい場所に出る。
        進んでしまおうか?迷ったが、事前にインターネットで得た情報から中芝新道
        と巌剛新道に崩壊箇所ありと見ていたため
        この場所をやり過ごしても先で登り返すこと、進めなくなることも視野に入れ
        検討した末、時間がかかっても安全を取り
        一ノ倉岳 – 谷川岳 – 下山 を選択しました。
        この時、風とガスで視界が阻まれる、体力の消耗で体温の維持ができなくなっ
        てくる。
        上着を着て耐えながらひたすら歩く。
        ただ水が乏しい、両者痺れ、足をつったりし始めました。
        大橋氏よりいただいたキャラメルで、ガンガン回復・消耗の繰り返し。
        9時頃山行管理をお願いしていた高橋氏に電波がつながる位置で連絡を取る。
        そしてその後、当日下山を止め、肩の小屋へ
        緊急避難し、翌朝下山を決める。
        オキノ耳をトマノ耳と間違え肩の小屋を探し時間をロスする。
        はやる気持ち、判断力の鈍りが出てきたと思われる。

23:00   なんとか肩の小屋へ逃げ込むが、すでに消灯後のため静かに入る。
        本当は喉から手がでるくらい水分が欲しかったが、扉をドンドンするほど勇気
        がない(宿泊客がいらっしゃるため)朝までとりあえず無事に迎えられると思
        い、諦め出入り口で横になったところで小屋の主人から声をかけていただいた。
        中に入れてもらい、飲み物を購入させていただき、食事は緊急と言って振舞っ
        ていただいた。
        泣いちゃうくらいの親切心、全身の力が抜けました。
        私自身肩の小屋で助けられたのは2度目(一回目は年末の避難)。
        
 5:00   起床。朝になり、すっかり体は回復。
        小屋の主人にお礼と挨拶をして、装備を整え出発。
        ここで装備を整えた時に、どこかで忘れたものに気づく。
        でもよかった「命」の忘れ物がなくて。本当によかった。

 6:00   田尻尾根で下る

 9:00   谷川岳登山センターへ到着
        日帰り温泉につかり、帰路につきました。

本山行では、登攀中に本当にヤバいと感じた場所が多かった。
同時に自分自身の弱いところが顕著に出た山行になりました。
大橋氏にはたくさんフォローしていただき助かりました。
反省点も含め、今後に活かしていきたいと思います。

>ヒヤリハット及び改善点
 ・トポに対してのインターネットの情報収集
  ネットに全く上がってこなかった中央壁右ルート・・・
  つまりこういうことである。
  情報が無い = 人が入っていない 
  過去がどうこうでは無い、今は今の情報収集方法があるので、できるだけ情報収集を行い
  計画を立てるべし。
 ・初めてで、判断のつかない場所へ入る時は、限られた装備の中でも可能な限り持って行っ
  た方が良い。
  今回、ハーケン、カム、シュリンゲ、カラビナ、ヌンチャク、ハンマー、バイルを利用し
  ました。
  またそれぞれのアイテムの使用方法をしっかり熟知すること
 ・声が届かない場所が多々あった。
  笛などを積極的に使用できるように、合図を決めておくべきだった。
  ザイルの2回引きでビレイ解除などの方法もあると思うが、ロープの流れが悪い時にはこ
  の方法は役に立たないことが多いと感じた。
 ・闇夜でのガス・風、ガスに反射したヘッデンの明かりが風がガスと一緒に流してしまう、
  前方が判断しづらい。
  稜線に限らず、足場の悪い場所での行動がかなり危険になる。
 ・登攀中に岩と泥に塞がれたハーケンの穴。カラビナは入らない。
  シュリンゲもなかなか通らない、自分自身もかなり不安。
  シュリンゲに硬いハリガネ若しくは細引きをつけておくと、もう少しスピーディにシュリ
  ンゲを設置できた。
  一ヶ所、ギリギリの場所がありました。
 ・自分自身の体・精神状態の管理。判断をしっかりすること。
 ・思っている以上に登攀中は消耗している。息も上がり汗もかいている。
  気がついた時には水不足。1日の行程や伸びてしまった場合のことも、しっかり考え、
  可能な限り余裕を持った装備で行動しなければならなかった。
 ・支点が悪いと、登攀したところからの懸垂下降ができない。つまり撤退不能となってし
  まう。引き返すなら1P目だった。
  このことも踏まえ、常に判断しながら登攀することを知らねばならない。
  ルートがあるものと思い入ってしまうことは命取りである。
  同時にエスケープルートも計画時にしっかり検討しておかねばならない。安易な
  「往路下山」は命取りになるかもしれない。
  万が一遭難してしまった場合、捜索隊が計画書記載の通りに探しにくるであろう。
  混乱を来す可能性大である。

朝焼け

二股は向かって右へ

見えてきた中央壁

中央壁右フェース取りつき点にて

1P-2Pつないぎ抜けた場所

1P-2Pつなぎ、終了点

無我夢中でカムを入れるが微妙、手元足元危険な状態、しかもロープ足らず冷や汗

もはや立派な支点

これでもかなりマシな支点

素晴らしい傾斜と景色

まだまだ続く

肩の小屋より翌朝の平和な景色

谷川岳 幽ノ沢中央壁右ルート” に対して1件のコメントがあります。

  1. 会員 より:

    反省と補足

    ・今回、見通しが甘かった。
    ピッチグレード゙がⅤ~Ⅲと、以前登った中央壁正面フェースとほぼ同じで、あのくらいの難しさかと思っていたが、支点の悪さでまったく異なっていた。
    腐りかけのリングボルトでもあればましという程度で、非常に危ういルートだった。
    ハーケンは所持していたが、打ち込むようなリスがきわめて乏しかった。そのため支点の補強も困難だった。

    ・コールが通らない。
    沢ではないから聞こえるかと思ったら、最初のオーバーハングを越えるピッチでほとんど聞こえなかった。
    「ビレイ解除」も聞こえず、下からの「青引いて」「登って良いか」、も上には聞こえなかったらしい。
    そのため時間を浪費した。

    ・ロープの長さを揃えるべきだった。
    45mと50mのWロープにしていたため、余ったロープが他方にからんでロープの流れを阻害することになってしまった。

    ・リーダーの奮闘努力
    今回、なんとか無事に上に抜けることができたが、これは高尾リーダーの尽力のおかげ。感謝!

    ・小屋にも感謝
    肩ノ小屋の方には本当に御世話になって、助かりました。こちらにも感謝。

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